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「長谷がさあ」  うしろめたい名前を口に出されて、理香はびくっとした。研さんはその反応を無表情に見ながら、チョコレートの包みを開け、中身をぽいっと口に放り込んだ。 「好きなんだよね、ここのチョコレート」 「そうなんですか」 「うん。聞いてない?」  口調はいつもと変わらないけれど、目が笑っていない。こんな研さんは初めてで、何だか怖い。  あんなことをしてしまったのだから軽蔑されるのは当たり前だ。でも、夜中に駅前で会ってしまった時は、こんな風にマイナスの感情をむき出しにされることはなかった。だから、てっきり見逃してくれたのだろうと甘いことを考えていた。  理香は目を伏せた。研さんのスニーカーと理香のショートブーツが、でこぼこのアスファルトの上で、一メートルほどの距離を開けて向かい合っている。  理香のことはどう思われても仕方がない。でも、長谷さんのことは悪く思わないでほしい。長谷さんにとって、研さんは大事な友達なのだろうと思う。こんなことで友達を失ってほしくない。  理香は、これ以上追及しないでくれることを祈りながら、あえて嘘をついた。 「聞いてません。そんなことを話す間柄じゃないですし」
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