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「理香ちゃん──」  研さんが動く気配がして、大きな手が頭に触れた。 「触らないで」理香は、その手を弱々しく払いのけた。 「研さんが汚れちゃうから。わたしは、汚いです。長谷さんは悪くないんです。ちゃんと知っていたのに、人のものなのに、わたしが横から盗もうとしたんです。ごめんなさい。ごめんなさい──」  長谷さん、ごめんなさい。黙っておかないといけなかったのに。迷惑をかけるかもしれません。ごめんなさい。  黙ってしまった研さんを前に、心の中で何度も何度も謝罪する。でも、口から出てしまった言葉は取り戻すことができない。 「──汚くないよ」  沈黙のあとで、研さんの声が落ちてきた。 「理香ちゃんは、汚くなんてない。謝ることなんて、何もない。ごめん、理香ちゃんを責めることじゃなかった」  研さんが理香の頭に手を回し、肩にもたせかけるようにして、何度もぽんぽんとたたいてくれる。男の人だという感じは全然しない。お兄ちゃんみたいだ、といつかと同じことを思う。  研さんが、くしゃくしゃになってしまった理香のハンカチを手から取り上げた。小さい子にするみたいに顔をぬぐってくれる。 「あのさ、理香ちゃんは、勘違いしてるよ。長谷のこと」 「──何をですか」  自分でもびっくりするくらい、声がかすれていた。泣きすぎだ。 「あいつ、一人だから。今は」
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