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 長谷さんの奥さんや子どもさんのことを知ったからって、どうなるのか。研さんが何を言いたいのか分からない。そして、こんな話は聞きたくない。  このまま消えるから、だから許して。あれは過ちだった。長谷さんとは二度と顔を合わせない。だから──。 「そんな、他人のことを勝手に、いくら研さんでも──」  苦し紛れに言い、「許されません」と続けようとしたら、研さんに遮られた。 「他人じゃないよ。妹だから、オレの。長谷はね、大学の同期だけど義理の弟でもある。家族なんだ」一息に口にし、それから小さな声で言い直した。「──家族だったんだ」  研さんは、そこでいったん言葉を切った。ちゃんと理解できていない理香に向かって、感情を抑えた声で続ける。 「妹は、もういない。あかねも。二人とも、もういないんだ」  研さんは、呆然として動きを止めた理香の手を離した。理香の手が、ゆっくりと下に落ちた。 「もう何年も経ってる」一つひとつ、かみしめるように言葉を口にする。 「あかねは、四月から小学生になるはずだった。二人目も生まれる予定で、引っ越しもして、なんか賑やかな春で──。妹も長谷もすごく楽しみにしてた。長谷だけじゃない、オレも、うちの親父もお袋も、みんな。あかねのランドセルはオレが買ってやって──」  研さんの声が震えた。 「三月に入ってから、妹は、あかねと一緒に登校の練習をしてた。一年生になったら、ちゃんと自分で歩いて行けるようにって、毎日、毎日──」  “あかね、入学式”  カレンダーに書かれた文字が頭に浮かんだ。
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