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長谷さんは、固まってしまった理香にぺこりと頭を下げ、「驚かせてすみません」と申し訳なさそうに言った。
「大会議室に行ったら、学生さんかな、この間の会議にも参加していた子に、あなたはこちらだと言われたもので」
和希ちゃんだ。
「ああ、はい。学習会の日は、この部屋を控室としてお借りしているんです」
そのまま沈黙が落ちた。何かコメントを求められている気がして、理香は言葉をさがした。
「あの、“ケア”っていうほど大げさなことじゃないんです。ただ、勉強が遅れ始めると、『もういいや』って諦めてしまう子も多いので。声をかけ続けるんです、ちゃんと卒業できるまで、ずっと」
それから、相手を立たせたままなのに気がついて、「すみません、どうぞ」と椅子を勧めた。理香の斜向かいに腰をおろした長谷さんに向かって、気まずい思いでつけ加える。
「本当は、中学や高校の先生方のほうが、ちゃんと助言ができると思います。でも、こういう電話は、わたしみたいな立場の人間がかける方がいい場合もあるみたい。学校の先生だっていうだけで敬遠する子もいますから──」
「なるほど」
少し分かります、と長谷さんはうなずいた。
「あの、別のお仕事、終わられたんですか」
「ええ」柔らかな口調が彼の人柄を思わせた。「やっとこちらに集中できます。貴重な時間をロスしてしまって、すみませんでした」
「そんな──」
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