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理香は、一つ前のメールに指をすべらせた。そっと触れて、開封する。
三月に入ってすぐの日付。時刻は夕方。このメールを受け取った時、スミレ先生と一緒にいて、学習会に向かう準備をしていたことを覚えている。
夜の駐車場にとまっていた、長谷さんの車。気づかなかったふりをして逃げ出した、あの日──。
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From:長谷貴文
To: 山村理香
20XX/03/01 17:21
こんばんは。
何度も連絡をして、申し訳ありません。
今日、話す時間をもらえませんか。
どうしてこんなことになったのか、ずっと考え続けています。僕の行動があなたを傷つけてしまったのなら、せめて謝罪する機会をください。
学習会が終わる頃に、区民センターの駐車場で待っています。
あなたが嫌がるようなことは絶対にしません。
僕の車に乗るのが嫌なら、指定の場所にうかがいます。都合が悪ければ、都合がいい時を教えてください。
一方的なお願いで申し訳ありません。
長谷
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理香は、一通ずつメールをさかのぼっていった。
長谷さんが伝えようとしてくれていたこと。何日も、何週間も前につづられた言葉に、胸が締めつけられる。
どうして、この人を信じられなかったんだろう。
どうして、無視することなんてできたんだろう。
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