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 車内アナウンスが、長谷さんが住むまちの名前を告げた。自動ドアが開いた瞬間、理香は、扉の間をすり抜けるようにして電車を降りた。そのまま早足で階段をくだっていく。  改札を抜けて、その先のコンコースを歩き、北口から外に出た。  長谷さんの自宅に向かって歩き出そうとした時、正面から吹き付けた冷たい風に、理香は思わず立ち止まった。  夜とはいえ、帰宅途上の人でにぎやかな街。ロータリーに入ってくるバスと、客待ちのタクシー。駅前の、ごく普通の風景が目に飛び込んでくる。  いつかの夜と同じように、雪が舞っていた。  でも、今はもう一月じゃない。目の前に落ちてくるのは、あの夜、長谷さんと一緒に眺めた雪じゃない。これは名残の雪だ。季節はとうに過ぎているのに、忘れた頃になって、過ぎた季節を惜しむかのように、はぐれて降る雪──。 ──本当に、会いに行ってもいいのかな。  最後のメールからですら、もう十日は経っている。 ──今さらなんじゃないかな。  何人もの人が、駅に向かって急ぎ足で歩いてくる。サラリーマン風の男性と肩がぶつかり、理香は「すみません」と頭を下げた。こんな場所で立ち止まっていたせいだ。バッグの肩ひもを握りしめ、理香はゆっくりと歩き出した。 ──いきなり押しかけて、迷惑じゃないかな。  考え始めると、とまらなくなる。
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