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 一刻も早く会いに行かなければと思った。そばにいたい、一人にしちゃいけない。そう思ったから、今、理香はここにいる。  長谷さんが失くしてしまったもの。それは、何にも代えられない大切なものだったはずだ。そのことを思うと、胸がつぶれそうになる。  けれど一方で、長谷さんが今一人だということを嬉しいと感じてしまう自分もまた、心のどこかに存在している。 ──会いに行く資格なんて、わたしにあるのかな──。  自分がひどく醜いものに思えた。歩く速さが少しずつ遅くなっていく。いつかのコーヒーショップの前で、理香はとうとう足を止めた。  ヘッドライトが連なる、渋滞気味の通り。交差点を挟んだ向かいには、ファッションビルが立っている。自分で引いた境界線。ここから先には二度と足を踏み入れないと決めたはずだった。 ──本当に、この先に行ってもいいの?  信号は青なのに、足を踏み出すことができない。やがて、早く渡れと急かすかのように青信号が点滅をはじめ、赤に変わった。  先に進むことも、引き返すこともできない。どうしたらいいのか分からず、理香は目の前を行き交う車越しに、ただ境界線の先を見つめた。  そして、そこに見覚えのある姿を見つけた。  長谷さんは黒いコートを着て、いつかと同じようにファッションビルの脇に立っていた。  遠目にも分かる、きれいな立ち姿。少し疲れたように、ビルの壁に軽く背中を預けている。  理香は、長谷さんの横顔を見つめた。 ──この人が、好きだ──。  愛しいと思う気持ち、そばにいたいと思う気持ちが沸き上がってくる。ほかの感情がまざる余地のない、単純で素直な気持ち。  余計なことを考える必要なんてない。今の自分に必要なのは、この気持ちだけなのだと気がついた。
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