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「──理香さん」長谷さんは少しだけ目を見開いて、まるでそこに理香がいることを確かめるかのように名前を呼んだ。「どうしてここに?」
「会いに来ました」
声が震える。理香は長谷さんの目をまっすぐに見た。
──もう、遅いですか?
心の中で問いかける。理香は、勇気を振り絞り、長谷さんの手に自分の手を伸ばした。指先がひやりとした。
「手、冷たくなってるじゃないですか」
長谷さんが気まずそうな表情になった。ここで何をしていたかは聞かない。だって、聞かなくても、もう知っている。
「いつからここにいたんですか?」
言いながら泣きたくなった。長谷さんがどんなに長い間ここにいたとしても、待っている相手が現れることはない。
理香は、長谷さんの手を取って自分の頬にあてた。ただ労わりたかった。冷たい手を温めようと、手のひらを重ねる。長谷さんは驚いた顔で、されるがままになっている。
「帰りましょう。風邪をひきますよ」
理香は、長谷さんの手を引っ張るようにして歩き出した。
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