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”娘さんの塾の迎え” ”夕飯は家で食べる予定だって──”  フォーラムの夜にボランティアの大学生から聞いた言葉を伝えると、長谷さんの表情が歪んだ。 「でも、それでもいいと思いました。長谷さんに家族を裏切らせることになってもいいって。だって、あなたが好きで──とても好きで、どうしようもなかった。求められて嬉しかった」  全部さらけ出す。 「それなのに、逃げ出したんです。今だって、事情を知った途端にのこのこやって来て。ひどいでしょう? 全部、自分のことばっかりで。わたし──」  窓から差し込む月の光が、室内を淡く照らしている。理香は自分のつま先を見つめた。とても顔を上げていられなかった。  「僕の家族はね、もう、僕の心の中だけにしかいないんです」  暗い部屋の中に、独り言みたいな小さな声が響いた。 「でも、あなたたちの活動を見ていたら、学習会に来ている子どもたちみたいに、本当はあの子もちゃんと生きていて、試験勉強をしたりしてるんじゃないかという気がした。塾に通うとしたらここだったのかな、なんて、駅前の塾まで迎えに行ってみたりして」  にぎやかな街の中、独りぼっちでビルの壁にもたれていた横顔を思い出す。 「一緒に帰って家で夕飯を食べよう、なんて空想して。もういないのに。ばかみたいでしょう?」
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