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「早瀬さん、すっかり馴染んでるみたいで安心しました」  スクールソーシャルワーカーの野中さんが、小会議室のパイプ椅子に腰を下ろし、理香に向かって嬉しそうに口にした。  区民センターでは、今日も学習会が開催されている。野中さんは、ついさっきまで、隣の大会議室でその様子を見学していた。 「大人しい子だし、初めての場所だしで、春先に連れてきた時は、かなり心配していたんですが、思ったよりずっと生き生きしてました。こちらにお願いしてよかった」 「そう言っていただけると嬉しいです」  野中さんは笑ってうなずき、「あ、そうだ」と思い出したように言って、隣の椅子から書類カバンを取り上げた。 「忘れるところでした。今日来たついでと言いますか、実は、お知らせしたいことがあってですね」 「何でしょう」  今後の予算のことだろうか、と心配になった。  区役所からの補助金は、なくてはならない財源だ。まだ七月だから、来年度の予算の話が出るには時期的に早すぎる気はするけれど、予算縮小の可能性があるのなら早めに対策を考えないといけない。  野中さんは理香の表情を見て、あわてて「いや、悪い話じゃないです」と続けた。 「実は、新しく、子どもの居場所づくりの事業が始まることになりまして」 「そうなんですか?」  理香は、思わず声を上げた。野中さんは、「そうなんですよ」と嬉しそうに言った。 「来月から実施団体の募集が始まります。AFFさんには、区役所の担当者から直接説明があると思いますが、『子ども食堂』的な要素も含む内容になっています」  言いながら、野中さんは“募集要項”と書かれた書類を机の上に置いた。  応募するための必須事項は、子どもへの居場所と食事の提供。共同事業の体裁で、必要な経費の半分を区役所が負担する──。 ──やれるだろうか。  個人的には、ぜひやってみたい。でも、人手は? 食材なんかの費用は? 
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