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今でさえ、決して豊かな財政状況ではないのに、費用の半分は行政が出してくれるといっても、残りの半分をひねり出すのは簡単じゃない。そのことは、経理を担当している理香が、一番よく知っている。
「あ」
「どうしました?」
「いえ、すみません。ちょっと思い出したことがあって」
フォーラムの時に、長谷さんの紹介で名刺交換した流通大手の担当者と、その後、一度だけやり取りしたメールの内容を思い出した。
フォーラムに足を運んでもらったことへのお礼。理香から送ったメールに対して、思いがけず長文で丁寧な返事をもらっていた。
“フォーラムの内容に心を動かされるものがあった”
“応援があれば将来が開ける子どもはたくさんいると思う”
“弊社が協力できることがあればご連絡ください。地域連携の担当部署と協議します”──。
食品スーパーを広く展開している企業。もしも本当に協力が得られるなら──。
どきどきしてきた。でも、理香の一存ではどうにもならない。まずは丸岡先生に相談し、定例会のメンバーで協議する必要がある。それに、人繰りも含めて、継続できる目途が立たなければどうしようもない。
「あの、野中さん」
「はい」
「情報提供、ありがとうございます。検討してみます」
野中さんがにっこりした。「ぜひお願いします」
その時、小会議室のドアがばたんと開いて、沙彩ちゃんが飛び込んできた。
「リカちゃん先生!」
いつものパターンに、野中さんが苦笑いしている。春までと違うのは、沙彩ちゃんの後ろに、野中さん紹介の早瀬ミキちゃんがいることだ。
「リカちゃん、やっぱりイケメンと付き合ってるんじゃん」
沙彩ちゃんは勢い込んで言った。
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