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 長谷さんのもとへと歩きながら、理香は、三月の終わりのことを思い出していた。  あの日の翌朝、目が覚めたら、長谷さんに苦しいほどしっかりと抱きしめられていた。 ブラインドの隙間から、春の日差しが降り注いでいた。何だかとても恥ずかしくなって、どうにかもがいて腕の中から脱出しようとしていたら、長谷さんが目を覚ました。  長谷さんは、『おはよう』と理香の耳元でささやいて、額に口づけた。 『ちゃんといた』 『いますよ』 『また逃げられていたら、どうしようかと思った。君には前科があるから』  抱きすくめられていた理由が分かった。前科だなんて、あんまりな言い方だけれど、間違ってはいない。 『ごめんなさい。もう逃げません』  素直に言ったら、長谷さんは小さく笑った。肩に回した腕をほどいて、理香の髪の間に指を滑らせる。その手が、とても優しかった。  指が、ほつれた髪を耳にかける。頬を手のひらで包み込むようにして上向かせ、深いキスを交わした。前夜から何度も愛し合った感触が残っていて、触れられるだけで否応なしに反応してしまうのが恥ずかしかった。
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