2979人が本棚に入れています
本棚に追加
初めて二人で迎えた朝。あの時、長谷さんの時間も、理香の時間も、それぞれに止まってしまっていた時が一緒になって、同じ速さで動き出した。
今は、二人でたくさんの話をする。いろんな話をして、少しずつ互いのことを知っていく。その中には、本当に大切なこともあれば、大した意味はないかもしれないけれど、ぎゅっと抱きしめたくなるようなこともたくさんある。
例えば、長谷さんが、本気で寝起きが苦手なこと。
冬が終わる前、様子がおかしいことを心配した研さんに問い詰められて、長谷さんは、理香との間であったことを白状した。寝ている間に理香がいなくなってしまったことを聞いて、研さんは「何で目が覚めないんだ」と頭を抱えた──らしい。
その教訓から、思いきり抱き締めて眠ることにしたんだと長谷さんは主張するけれど、それは言い訳にすぎなくて、今は、単に二人でくっついて眠る心地よさを楽しんでいるだけのように思える。
それから、長谷さんは、お酒よりも甘いものが好きなこと。
言われてみれば、初めて一緒に食事をした時、長谷さんは、ビールをグラス一杯だけしか頼まなかった。別に弱いわけじゃないけれど、お酒は、食事と一緒に軽く楽しむ程度で十分らしい。
一方で、四月の長谷さんの誕生日に、研さんから聞いていたチョコレートをあげたら、プレゼントしたネクタイと同じくらい本気で喜んでくれた。
そして、花穂子さんとは、大学時代、たまたま研さんの実家に立ち寄った時に知り合ったこと。
学生結婚で、卒業してほどなく、あかねちゃんが生まれた。長谷さんは、それ以上のことは語らないけれど、たぶん二人のことを何よりも大事に思っていた。二人がいなくなってしまったあとも、たった独り、三人で暮らした日々を想い続けるくらいに──。
そんな長谷さんのことを、心から愛しいと思う。
最初のコメントを投稿しよう!