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 絶対に好きになってはいけない相手だと思っていた。助手席に座ることさえ、いけないことみたいな気がした。自分の気持ちが後ろめたかった。  前方の車の赤いテールランプを見ながら、あの頃のことを思い返していたら、長谷さんが前を向いたままで言った。 「忘れないうちに伝えとく。ワークショップの話、受けるよ」 「え? いいんですか?」  理香は、思わず運転席に目を向けた。長谷さんは、前を向いたまま、涼しい顔でハンドルを握っている。 「うん。スケジュールの調整がついた」  AFFの新しい取り組みとして、夏の終わりから秋にかけて、中高生向けのプログラムを行うことになっている。子どもを対象にしたワークショップはいくつもあるけれど、今回の事業がほかと大きく違うのは、苦しい環境にいる子ども優先で参加者を募るという点だ。 『いろんな世界があることを知ってほしい。そして、将来の夢を描いてほしい。そのきっかけをつくりたい』  丸岡先生は、企画の目的をそう語った。それは、関係者全員の想いでもある。  講師は、あらゆる伝手をたどり、いろんな分野で活躍している方々にお願いすることになっていた。候補者は、定例会の中でリストアップした。その筆頭に長谷さんの名前が挙がっていた。
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