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「あの、本当にいいんですか?」  講師はただ当日いればいいというものではない。事前の準備も必要だし、ファシリテーターとの打ち合わせもある。正直、かなりの手間だと思う。加えて、謝礼は交通費程度しか出ない。  それに何よりも、この人は、まさしくデザイン業界の第一線で活躍しているクリエイターだ。普段、そんなことを周囲に意識させる人ではないけれど、実際に仕事を受けてもらえるとなると、畏れ多い気持ちでいっぱいになる。 「自分でオファーしておいて、そんなに驚かなくても」長谷さんは、もっともな言葉を口にした。それから、ちらっと理香を見て苦笑いを浮かべた。 「オファーって言えば、そもそも、あの電話は何?」 「いや、ええと、あれはですね」  言われて、ものすごく焦る。理香の言い訳を待たずに、長谷さんは続けた。 「携帯じゃなくて、わざわざ会社にかけてきて、『お世話になっております。AFFの山村です。ちょっとお願いがありまして』って、一体何が起きたのかと思ったよ」  セリフまで、しっかり覚えているらしい。あれは、さすがに変だったかなと自分でも思っていた。お願いだから、もう忘れてほしい。 「だって、公私混同になっちゃいけないかなって思ったんです」  取りあえず言ってみたものの、全然説得力がない。 「他人行儀すぎて、理香とつきあってること自体、僕の妄想なんじゃないかと心配になった」
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