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 いつの間にか、長谷さんがハンドルに右手を軽く置いたまま、理香を真っ直ぐに見つめていた。その目が優しく笑っている。あれ?と思って前を確認したら、信号が赤になっていた。 「理香」  長谷さんがささやいた。理香が大好きな手が伸びてきて、頬に触れた。親指が、ゆっくりと唇の端をなぞる。それだけで、しびれたみたいに動けなくなった。うっすらと開いた口元に、長谷さんが唇を寄せた。触れたところから、甘いしびれが広がっていく。 「──よかった。僕の妄想じゃなくて」  長谷さんは言い、もう一度、頬に触れてから、名残惜しげに身体を起こした。それから少し真面目な声になった。 「あと、もう一つスケジュールの話だけど」 「何でしょう」  話の途中で信号が青になり、長谷さんが再びゆっくりと車をスタートさせた。静かな車内に、低いエンジン音とエアコンの音だけが聞こえる。 「ご両親へのご挨拶、いつがいい?」
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