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 長谷さんの口から「結婚」の二文字が出る少し前から、「挨拶だけでも早めに行かせてほしい」と言われていた。  そんなのいいのにと思うけれど、長谷さんは「きちんとしておきたい」と言う。長谷さんはたぶん自分が初婚ではないことを気にしている。 「ご両親とは三年ぶりになるんだっけ?」  理香はうなずいた。 「ずっとこのままっていう訳にもいかないだろうし、いい機会だと思うよ」  長谷さんには、理香の家の事情を話してある。  出生の経緯も、父と母の関係も、全部。それに、大学四年の冬に家を出てから一度しか帰省していないことも、父と母が入籍したらしいことも、たまに母から電話はあるけれど、理香からは一度もかけていないことも──。  その話をした時、長谷さんは途中で口を挟むことはせず、最後まで黙って聞いていた。どんな反応が返ってくるか心配だったけれど、話が終わったあと、ただ理香を抱き寄せ、腕の中に温かく包んでくれた。 「──連絡してみます」  理香は、長谷さんの横顔に向かって言った。正直、実家に顔を見せるのは気が重いとしか言いようがないけれど、長谷さんが言うように、ずっとこのままでいるのもどうかとは思っていた。 「僕も少しは支えになれると思うよ」長谷さんの左手が、勇気づけるように理香の右手をぎゅっと握った。「一緒に帰ろう」  確かに、この人が一緒にいてくれるなら、心が強くなれそうな気がする。
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