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 幹線道路をしばらく走り、やがて左折して長谷さんが住む街に入った。金曜日の夜だからだろう、大きな通り沿いの歩道は賑やかで、飲み会帰りと思しき人達があちこちに寄り集まっている。  ファッションビルがある交差点の少し手前で右に折れた。その先には、表通りの喧騒が嘘みたいに、静かな住宅街が広がっている。  車は夜の道をゆっくりと走って行く。ヘッドライトの先にきらっと光るものがあって、思わず目を凝らしたら、白っぽい猫が光の輪の端っこを通り過ぎ、ふいっと背中を向けて誰かの庭へと入っていった。  両側に立ち並ぶ家の一つひとつに、暮らしている人がいる。その誰もが、今この瞬間に幸せならいい、寂しくなければいいと思う。 「こんなふうに一緒に家に帰るのっていいね」  長谷さんがつぶやいた。理香も同じことを思う。 「そうですね、本当に──」  ちゃんと気がついていなかったけれど、たぶんずっと寂しかった。  無条件に愛してくれた父と母に一方的に別れを告げ、生まれ育った自宅を離れた。あれから、研さんや、スミレ先生や、和希ちゃんや、丸岡先生や──たくさんの人に出会い、支えられながら今日まで歩いてきた。  でも、それでも、みんながいる場所を離れれば一人だった。きっと、いつも、どこにいても互いを何よりも大事だと思い合える人、そうして、一緒に同じ家に帰る人に出会いたかった。  小さな三差路を左に曲がると長谷さんの自宅が見えてきた。かつてこの家に暮らしていた幸せな家族の記憶も含めて、今ここにある全部がかけがえのないものに思える。  長谷さんが、ガレージのシャッターゲートをリモコンで開け、車を中に入れた。エンジンを切り、理香の膝の上から、学習会の道具が入ったトートバッグを取り上げる。  車を降り、どちらからともなく手をつないで、玄関に向かって歩いた。長谷さんが、取り出した鍵でドアを開け、「ただいま」と声をかけ合って、家の中に入った。
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