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のんびりと寝坊をして、少し遅めの朝になった。
リビングの窓を開けて、陽の光をいっぱいに取り込む。やわらかな初夏の風が部屋いっぱいに吹き込んで、壁のカレンダーを揺らした。シンプルに配置された数字。上の方に「7」という数字が見えている。
洗面所から出てきた長谷さんが、目をぱちぱちさせた。
「この部屋、こんなに明るかった?」
「前にも同じこと言ってませんでした?」
三月の終わり、初めて一緒に目覚めた朝のことだ。長谷さんは、居間に足を踏み入れるなり、「明るいな」と言った。
「言ってた?」
「言ってましたよ」
憶えていないらしく、長谷さんが首をかしげている。柔らかい生地のパジャマと、整えられていない髪が、何だかかわいい。
「いい天気ですね」
「そうだね」
庭に面した掃き出し窓に並んで立ち、外を眺めた。指をからめると、ぎゅっと握り返してくれる。
「カレンダー、今年のに替えたんですね」
本当は、少し前から気がついていた。本来ここにいて、長谷さんと幸せを分かち合っていたはずの人のことを想う。
「うん。こんな時期じゃ手に入らないかなと思ってたら、会社のスタッフが見つけてきてくれた」
理香の感傷に気づいているのかいないのか、長谷さんはあっさり言った。
食器棚に並んでいたお茶碗も、いつの間にか片付けられていた。どこにやってしまったんだろう、まさか気を遣って手放したんじゃないかと心配していたら、引き出しの奥に大切にしまわれているのを偶然見つけて、ものすごく安心した。
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