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 長谷さんは、絶対的な別れを経験している。その喪失感は想像することしかできないけれど、二度と同じ思いはさせない。 「あのね、わたし、意外と丈夫ですから。何十年かは絶対大丈夫です。一人になんてしません」  きっぱり言ったものの、ちょっとオーバーだったかと心配になって「たぶん」と小声でつけ加えた。長谷さんが眩しそうに目を細めた。 「でも、置いて行かれちゃうのも嫌だから、同じくらいまで生きましょう。約束です」  守れるかどうかなんて誰にも分からない、あてのない約束。でも、この人と一緒に、ずっと、この明るさの中で生きていけたらいいと思う。 「分かった。約束」長谷さんは言って、顔をほころばせた。「じゃあ、まずは実家だ。ほら、さっさと電話して」  わざとらしくせかせかと言った長谷さんに向かって、理香は「その前に朝ごはんです」と宣言した。 「牛乳、あったかな」 「なかったです」 「パンは」 「なかったけど、買ってあります。卵も。いつも冷蔵庫が空なんだもん」 「──ごめん」  口では謝っているくせに、目が笑っている。その後ろでカーテンが揺れている。庭のどこかで小鳥の声がする。たわいのない会話が続いていく。 「たまには、カフェでごはんもいいですけどね。よさそうなお店、近くにたくさんあるし」  実際、一人の時は、カフェで軽い朝食をとることが多いらしい。 「──引っ越してもいいよ」 「急にどうしたんですか?」 「新しい場所の方がいいんじゃないかと思って」
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