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やがてドアが閉まり、再び列車が動き出した。
降りた人の方が多かったらしく、少しだけ余裕ができた車内に並んで立ち、窓に映った互いの姿を見ながら話を続ける。
「山村さん、どこで降りるんですか?」
「次で降ります」
理香の返事に、小川さんは「あれ?」と首をかしげた。
「前に会った時は、確か僕が先に降りましたよね。家、もっと先なのかと思ってました。というか、もしかして、今日は飲み会か何かですか?」
「まあ、そんなような──」理香はもごもご言った。
小川さんは意味ありげに目を細め、一瞬の間を置いて次のセリフを口にした。
「そう言えば、次って、長谷さんの会社の最寄り駅ですね」
何気ない顔で指摘されて、理香は「そうですね」とうなずいた。
「そうかあ」
窓に映るシルエットが、うんうん、とうなずいている。何やら一人で納得しているらしい。
「どうかしたんですか?」
「いや、別に」
理香は首をかしげた。やっぱり、よく分からない人だ。窓の中のシルエットが左を向いたかと思うと、すぐ隣から声が降ってきた。
「駅、もうすぐですよ」
列車が徐々に速度を落とし始める。理香は、バッグの内ポケットをさぐってICカードを取り出した。
「長谷さんによろしく」
「あ、はい」
思わず答えてしまったあとで、理香はぱっと顔を上げた。待ち合わせだなんて一言も口にしてないのに。
──何で分かるの?
小川さんが、ふき出した。
「いや、ほんと、山村さんっていいですよね。長谷さんがつかまったのも分かるなあ。長谷さん、かなり前からメロメロみたいでしたからね」
冷房が効いているはずなのに、いきなりぶわっと熱くなった。
「め、めろめろ──ですか?」
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