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教えてもらった地番をさがすまでもなく、植栽に囲まれた低層ビルの開けた空間の一角に、小さな照明にてらし出された「長谷デザイン」のプレートを見つけてしまった。間違いなく長谷さんの会社が入っている建物だ。
一階には、広々としたガラス張りのフレンチレストランが入っている。その入り口の横の奥まったところに、ビル自体のエントランスが見えていた。最近の機能的なオフィスビルではなく、もっとゆとりを感じさせる建物だ。
理香は、どきどきしながらエントランスに足を踏み入れた。エレベーターの前を通り過ぎ、その先の階段を上がる。
二階に入っているオフィスの片方が長谷さんの会社だった。木とガラスが組み合わさっている壁の左側部分に、アルファベットで会社名が表示されている。
『会社っていうより、個人の事務所だから』
そう言っていたくせに、だまされた気分になった。どこからどう見ても、ここはちゃんとしたオフィスだ。
どうしたらいいのか迷って、オフィスの前をウロウロしていると、ガラス越しに、奥から近付いてくる女性の姿が見えた。ドアの手前で立ち止まり、セキュリティを解除して、ドアを開けてくれる。
「山村さんですか?」
どうやら、待ってくれていたらしい。
理香より年上のようだけれど、ショートカットの髪とストライプのワンピースが、すらっとした身体によく似合っていた。「真山」と名乗った彼女に案内されて、理香は、オフィスの内側へと足を踏み入れた。
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