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長谷さんは、入ってすぐ左側のミーティングブースで、背広姿の男性と打ち合わせをしていた。
ガラスで仕切られた空間の横を通る時、テーブルの上に大判の用紙が何枚も広げられているのが見えた。長谷さんの隣で、ラフなスタイルの若い男性が話をしているけれど、ちゃんと遮音がされているらしく、声は聞こえない。
長谷さんが、ガラスの内側から理香を見つけ、軽く手を上げてにっこりしてくれる。理香は、ぺこりと頭を下げて、ぎくしゃくとその場を通り過ぎた。
真山さんが、その様子をちらっと見て、唇の端っこで笑ったような気がした。
案内されるままに奥へと進み、スタッフ専用と思しきミーティングテーブルの端っこに座る。すごく図々しいことをしているような気がして、どうにも落ち着かない。
「冷たいのがいいかな? アイスコーヒーでも大丈夫?」
親しげな口調で聞かれて、「ありがとうございます、すみません」と返事をした。来客でもないのに申し訳なくて仕方がない。
そんな理香を見て、真山さんは、今度こそ確かにくすっと笑った。
「ちょっと待っててね」と言い置いて、給湯室へと消えていく。一人残されて、理香は、遠慮がちにオフィスの中を見渡した。
アイボリーの壁に、木製の造りつけのブックシェルフ。きれいにそろえられたグレーのファイル。資料だろうか、背表紙にアルファベットが並んだ大判の書籍は、写真集か何かみたいにも見える。
オフィス内には、使い勝手のよさそうなデスクが並んでいた。白い天板の上に、普段目にするものよりも大型のモニターが載っていて、その横に普通のノートパソコンが置かれている。
一番奥、部屋の角に独立したデスクがあった。椅子の背に見慣れたジャケットを見つけて、少しだけほっとした。
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