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「あのね」と真山さんが言う。「『相手してて』ってことは、多分、いろいろ話していいっていう意味だと思うのよ」
次の言葉を考えるように、真山さんはいったん口をつぐみ、きれいに整えられた爪に目を落とした。
「わたし、ここ、コネで入ったの。もう十年近くになるかなあ」
「そうなんですか」
理香は、話の流れがよく分からないまま、相槌を打った。
「うん。あのね──」
真山さんが遠くを見るような目になった。
「ここに入ったのってね、花穂子の紹介。それまで派遣の仕事してたんだけど、正社員で事務職を探してるからって声かけてくれて。高校の同級生だったんだあ」
真山さんが懐かしそうに言った。その目から、ぽろんと涙が落ちた。
「あはは、ごめん。あんなに急にいなくなっちゃうなんて思わなくて。何年も経つのに、思い出しちゃうと、やっぱりダメだなあ」
驚いてしまって、何も口にできない。真山さんは、理香を優しい目で見た。
「花穂子との共通の知り合いにあなたを会わせるのって、勇気がいったんじゃないかなと思うのよね」
長谷さんのことだ。真山さんが言いたいことは、すごくよく分かる。理香はうなずいた。
「でも、あなたには、全部さらけ出して、自然体でいようと思ってるんじゃないかな。『ずっと一緒にいる相手だから』みたいなこと言ってたし。──ずっと一人だったから、そういう人に会えてよかったなって──」
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