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それから、いろんな話を聞かせてもらった。
事務所を立ち上げた頃のことから、つい最近のことまで、いろんな話題が出てくる。知らない長谷さんに出会える気がして、楽しかった。
真山さんは、最初のうち、話の中にできるだけ花穂子さんが出てこないように気を遣ってくれていた。けれど、理香の様子を見て構わないだろうと思ったのか、途中からは自然な会話になった。
むしろ聞かせてほしかった。
自分と同じように、長谷さんを好きになった人。こうして話を聞かせてもらうと、まるで、すぐそばに花穂子さんがいて、一緒に笑っているような気がした。
「ごめんね」と心の中で詫びる。あなたが大切にしていた人のこと、ちゃんと大事にするから──。
真山さんの話に相槌を打ちながら、そんなことを考える。
──と、突然、真山さんが口をつぐみ、きょろきょろと周囲を見回した。
長谷さんはまだミーティング中だ。時間から見て、あとのスタッフはすでに帰宅してしまっているのだろう、オフィスには真山さんと理香のほかに誰もいない。
「どうかしました?」
尋ねた理香に向かって、真山さんが「あのね」と改まった口調で切り出した。音量が小さくなっている。
「長谷さんってね、さっきも言ったけど、ずっと女っ気がなくて、このまま一人なんじゃないかって心配してたの」
「はい」
「心配してたんだけど──」
「はい?」
理香は、身構えた。
「あのね、モテるのはモテるのよ。結構──っていうか、ものすごく」
理香は、眉間にシワを寄せた。同じような話を、ついさっき電車の中で聞いた気がする。
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