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「もしかして、そうなんじゃないかとは思ってました」
理香が言うと、真山さんが深刻な顔でこくりとうなずいた。二人して小声になる。
「無自覚なのが困ったちゃんだけどね」
「分かります」
長谷さんには、無自覚というか、無頓着というか、確かにそういうところがある。
例えば、電車の中とか、人が多い場所で一緒にいると視線を感じることがある。そういう時、振り向くと大抵、女性と目が合う。たまに男性があわてた様子で目をそらし、理香の方が焦ってしまうこともある。
そして、長谷さん本人は全然気がついていない。
「取引先にも、“こいつ、実は狙ってんじゃないの”って感じの子がいるし」
「そうなんですか? 気のせいじゃなくて?」
ちょっとあわててしまった。「うん」と真山さんはうなずいた。
「うちとの取引関係を危うくするようなアプローチは、さすがに自粛してるだろうけど、ターゲットにされてるのは間違いない感じ」
ドキドキしてきた。理香は、目の前のグラスを手に取り、アイスコーヒーを一口飲んだ。こんな時にどうかとは思うけれど、おいしかった。
「あのね、うちの事務所では、誰かから名刺をもらったら、わたしがいったん預かって専用のソフトでスキャンして整理するんだけど、名刺の裏にね」
「裏に?」
「携帯番号が手書きしてあったりするのよ」
「携帯も知らせておく方が業務上便利だとか、そんなんじゃないんですか?」
一応、可能性を指摘してみる。
「名刺の表には、業務用の携帯番号も印刷されてるのに? いやいや、ないでしょ」
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