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「なんか、変な感じ。花穂子がもういなくて、理香ちゃんがここにいて、こんな話をしてて。時間が経ったんだなあって、改めて思った」
理香ちゃん──。友達みたいに優しく呼ばれて、びっくりした。理香の表情を見て、真山さんが照れたように笑った。
「ごめん。理香ちゃんだなんて、図々しいね。長谷さんが『理香』って呼ぶのを聞かされてるもんだから、つい」
「構いません──というか、むしろうれしいです。ありがとうございます」
理香は、心から言った。真山さんが「くふふ」と変な笑いを漏らした。
「長谷さん、本当にメロメロなんだもの」
「め、めろめろ──ですか?」
またもや出てきた単語に、ぶわっと身体が熱くなった。小川さんといい、真山さんといい、理香がいない場所で長谷さんは一体どんな姿を見せているんだろう。
「メロメロよ。あり得ないくらい。この間もね、お昼ごはんを食べてたら──」
「──誰が何だって?」
突然割って入った声に、椅子の上でとび上がりそうになった。真山さんと二人、おそるおそる顔を上げると、すぐそこに長谷さんが立っていた。
「今、なんか妙な話をしてなかった?」
いつの間にか、打ち合わせが終わっていたらしい。一緒に戻って来たらしいポロシャツ姿の男性が、資料を両手に抱えたまま、長谷さんの後ろで笑いをこらえている。
「理香ちゃんがいれば、ハンターに狙われる心配もなくなりますね、って話です」
「ハンターって、何のこと?」
「ほら、これだから」と真山さんが肩をすくめ、男性スタッフが今度こそ笑った。
「ついでに、早く指輪も──って話もしてあげてましたけど、何か?」
真顔で言った真山さんに、長谷さんが同じく真顔で深くうなずいてみせた。
「その件に関しては、お礼を言います。僕もまったく同感です。もっと言ってやってよ、この困った人に」
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