■ scene 2

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 その時、「ただいまー」と声がして、数人の男女がオフィスに入って来た。先頭にいた男性が理香に目を留め、「お、来てる」と声を上げた。 「え? ちょっと見せて」後ろから女性が顔を出す。「あ、どもども、こんばんはー」  ひらひらと手を振られ、思わず振り返した。賑やかな声に、まるで自分がパンダか何かにでもなってしまったかのような気がする。 「夕飯組が帰ってきた。全員そろっちゃったね」  長谷さんのわざとらしい口調に、真山さんが「全員残ってるの分かってて呼んだくせに」とつぶやいた。長谷さんは、真山さんの指摘をさくっと無視して続けた。 「というわけで、せっかくだから紹介します。こちら、山村理香さん。僕の極めて個人的な、かつ、親密でとても仲がいい、特別な知り合いです」  何だか妙な紹介に、周囲の皆さんが笑いをこらえている。「彼女って言えば十分でしょ」と真山さんが呆れた顔をした。  理香は、あわてて立ち上がって頭を下げた。こんな風に会社の人に引き合わせてもらうことになるなんて思っていなかった。 「山村さんって、AFFの方ですよね?」  男性の一人が声を上げる。「はい」と答えると、周囲から「あー、あの電話の!」という声が飛んできた。 「ワークショップの講師依頼の人でしょ?」  言われて焦る。前に長谷さんから「一体何が起きたのかと思った」と言われてしまったアレだ。 「はい、そうです。ちょっとあの時は緊張しててですね──」  思い出しただけで恥ずかしくてたまらない。
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