■ scene 3

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■ scene 3

「びっくりしました。いきなりなんだもん」  階段を降りながら、長谷さんに文句を言う。前を行く白いシャツの肩。すぐ目の前に、きれいなつむじが見えている。  長谷さんは一足先に階段の下にたどり着くと、脇によけて理香を振り返った。 「足下に気を付けてね」  優しい口調で言い、左手を差し出す。右手にはバッグを下げ、軽い生地のネイビーのジャケットをかけている。 「──聞いてますか?」 「聞いてるよ。ほら、おいで」  最後の一段を下りて隣に立つと、長谷さんの左手が理香の右手をぎゅっと握った。そのまま指をからめてエントランスを後にし、ビルの前の通りを歩き出した。 「ごはん、どこで食べる?」  理香の顔をのぞき込むようにして、長谷さんが斜め上から問いかける。声が、笑いを含んで温かい。完全に面白がられている気がする。理香は唇をとがらせた。 「紹介するならするって言ってください」 「だって、言ったら恥ずかしがって来ないよね?」 ──確かに。  長谷さんは、いつもの深みのある声で「ほら、そんな顔しないで」と笑った。右手で理香の額をつつこうとして、バッグとジャケットが邪魔だと気づいたらしく、つないだままの左手の甲で理香の頬をなでる。 「嫌だった?」 「嫌じゃない──っていうか、嬉しかった。けど、ちょっと恥ずかしかった」 「そう?」  長谷さんが、幸せそうに笑う。この人のこんな顔を見たら、もう何でもいいや、という気になってくる。理香は、長谷さんの手をぎゅっと握った。
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