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「どこに行こうか」
「──この間のとこがいいな」
長谷さんが以前から頻繁に通っている店だ。最近、何度か続けて二人で行った。ご夫婦だけでやっている路地裏の小さな店。木のカウンターがあって、並んで座ると、とても居心地がいい。
この時間なら予約なしでも大丈夫だろう。
「じゃあ、あそこにしようか」
「うん。豆のサラダ、食べたいです」
ちょっと甘えて言ってみる。
「理香、豆好きだよね」
僕はよく転がすけどね、と笑うけれど、そんな場面は一度しか見たことがない。長谷さんは指先が器用で、とてもきれいにお箸を使う。
「今の季節なら、枝豆が入ってるかなあ」
「ああ、入ってたら、緑がきれいそうだね」
じゃれるように言葉を交わしながら歩き、横断歩道を渡って駅前に出た。かすかに風が吹いている。
「少し涼しくなってきたかな」
「日中、すごく暑かったですもんね」
「そうだね。まあ、ひと月もすれば本格的に涼しくなるかな」
秋になったら遠出をしようよ──。そんな話をしながら、コンコースの前の広場を横切る。その先の細い路地に足を踏み入れた。
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