■ scene 3

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「これ、よかったらどうぞ」  お盆の上に白ワインのグラスが二つ。「失礼します」と言いながら、奥さんがテーブルの上にセットしてくれる。 「あれ? 頼んでませんよ。ほかのテーブルじゃないかな」  首をかしげた長谷さんに、奥さんは「いえ、こちらに。主人からです」と控えめに微笑んだ。 「いいんですか?」 「はい。どうぞ」  長谷さんは、カウンターの内側に向かって、「すみません、ありがとうございます」と声をかけた。ご主人が手元から目を上げ、破顔した。 「お祝いです。ささやかだけどね」初めて声を聞いた。「ついでに、これもどうぞ」  カウンター越しに、お皿を手渡してくれる。薄く切ったバゲットの上にドライフルーツやチーズが盛り付けられている。小さな花も添えられていて、とてもきれいだ。理香は、思わず「わあ」と声を上げた。 「うちの妻がね、間違いないって言うから」  長谷さんがにっこりして「実は、そうなんです」と楽しそうに言った。意味が分からなくて、理香は小声で尋ねた。 「何のことですか?」 「理香と僕のこと。祝ってくれるんだって」  カウンターの中で、ご主人がにこにこしている。 「長谷さん、最近たまに二人でいらしてたでしょう? そうじゃないかなとは思ってたんですけどね。ほら、万一違ってたら悪いし、聞けなくて」  名前も知っているらしい。  そこでようやく、長谷さんはこの店の常連なのだし、一人で来た時はカウンター越しに話をしているのだろうということに思い当たった。もしかしたら、ある程度の事情も知っているのかもしれない。 「お似合いですよ」優しい目を向けられて、くすぐったい気持ちになる。「うらやましがる子もいそうだなあ。長谷さん、ファンが多いし」
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