■ scene 3

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 戸口まで奥さんに見送られて、お店をあとにした。  暗い夜道を駅に向かって歩く。駅前広場に出る少し手前、いつか携帯電話の番号を交換した場所まで来た時、理香は足を止めた。つられて長谷さんも立ち止まる。 「あのね──」  長谷さんと向かい合うようにして立ち、理香はおずおずと口を開いた。とても伝えたいことがあった。 「ん?」 「その──」  お店にいる間に、ちゃんと言おうと決心したこと。でも、いざ口にするとなると勇気がいる。 「どうかした?」 「あの、ちょっと話が──」  言いかけて、次の言葉をさがしていると、長谷さんが少しだけ心配そうな顔になった。  道の先、駅前広場の方から酔っ払いの声が聞こえてくる。学生だろうか、男女の声がまざっていて楽しそうだ。長谷さんの肩の向こうの自動販売機のボタンが、妙に明るく見えた。  そんなことをいちいち考えてしまうのは、緊張しているせいかもしれない。 「ごめんね」長谷さんに言われて、理香はびっくりして顔を上げた。「ちょっと強引だったかな。気づかれした?」 「そんなことないです」  理香はあわてて否定し、長谷さんのジャケットの端っこに触れた。長谷さんが理香を見つめている。理香は、再び下を向き、足下を見つめたまま一息に言った。 「あのね、結婚のこと。早くしたくなった。ダメですか?」
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