■ scene 3

8/10

2950人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
 朝も昼も夜も、一緒にいたい。この人と。  自分の心臓の音が聞こえそうだ。長谷さんは、何も言わない。どきどきしながら見上げると、きれいな目が理香を見つめていた。  長い指がすっと頬に触れ、優しく輪郭をなぞる。もう片方の手が肩に触れた。ふわっと引き寄せられたかと思うと、次の瞬間、長谷さんの腕の中にいた。  背中に回された手が、そっと理香を抱きしめる。 「ダメなわけない」理香の耳元で、長谷さんの声がささやいた。「今日でも、明日でもいい」  長谷さんが髪に口づけた。額に、まぶたに、唇が触れる。思わず顔を上げると、至近距離で目が合った。  長谷さんは理香の顔をのぞき込み、もう一度、指先で頬に触れた。目を伏せた理香の頬を、片方の手のひらで柔らかく包んで、上向かせる。 「早く、僕のところに来て──」  キスが落ちてきた。 「理香」  名前を呼んでは、キスを繰り返す。理香は、長谷さんのシャツを握りしめた。触れられたところから、心地のよいしびれが広がっていく。足下がふらついて身体に力が入らない。 「貴文さん──」  返事の代わりに、またキスが落ちてくる。何も考えられなくなってしまいそうだ。完全に溺れてしまう前に、理香はどうにか口にした。 「待って──」 「何で?」 「──ここ、家じゃありません」
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2950人が本棚に入れています
本棚に追加