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ガラスの扉を開けて外に出ると、十一月初めのさわやかな風が優しく髪を揺らした。
どうしてだろう、ほんの二時間ほどしか経っていないのに、頭上のけやきの枝を抜けてこぼれる陽の光が、来た時よりもずっとキラキラして見える。
思わず立ち止まると、先に立って扉を押さえていてくれた貴文さんに、優しく名前を呼ばれた。
「理香? どうかした?」
理香は「ううん、何にも」と微笑んでみせた。ポーチの上、木漏れ日の中に足を踏み出す。
「足下、気をつけて」
貴文さんが、たった二段しかない階段を降りようとする理香に声をかけ、手を差し伸べてくれる。本当は、まだ手助けなんて必要ないのだけれど、理香は、少し照れながら、差し出された腕につかまった。
「荷物、持つよ」
「え? いいですよ、そんな。重くないし」
「いいから、貸して。ほら」
貴文さんは、空いている手で、大した荷物も入っていないバッグを理香の肩から取り上げた。
「過保護ですよ。まだ、全然そんな時期じゃないのに」
「いいの、そうしたい気分なんだから。ほら、余計なこと言ってないで、ちゃんと足下を見て。転ばないように。君は、しっかりしているように見えて、時々あぶなっかしいから」
理香は唇をとがらせた。この人の目に普段の自分は一体どんな風に映っているんだろうと思うと、眉間にシワが寄ってしまう。
理香の顔をのぞき込むようにして、貴文さんが笑った。
「ほらほら、怒らないの。身体に障るよ。ゆったり過ごせって、さっき言われたばかりでしょう」
眉間のあたりをつつかれた。何だか子ども扱いされているような気もするけれど、まあ、それはそれで楽しいと言えなくもない。
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