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──? どこに行っちゃったのかな。
洗面所だろうか。水音が聞こえないかと、しばらく家の中に耳を澄ましてみたけれど、どこもかしこもしんとしていて、何も聞こえはしない。
彼が夜中に外出するなんて考えにくい。それに、万一出かける用事ができたのだとしたら、たとえ行き先が近くのコンビニだったとしても、ちゃんと理香に声をかけてくれるだろう。
だから、家の中にはいるはずだ。それなのに、どうしてこんなに静かなんだろう。
──まさか、倒れていたりしないよね?
そういう可能性だってあることに気づいた途端、心配になってきた。
理香は毛布を脇によけ、そっとベッドから抜け出した。そうする必要なんてどこにもないのに、静かすぎるせいか、忍び足になってしまう。
ドアの向こうの廊下は真っ暗だった。
寝室の向かいにあるトイレにも、その隣の洗面所にも、明かりはついていない。廊下の突き当たり、リビングの方をうかがってみるけれど、やはり真っ暗だ。
ますます心配になってくる。
近づいてみると、リビングのドアは半開きになっていた。おそるおそる室内をのぞき込み、「貴文さん?」と呼びかけようとした時、ソファの上に人影があることに気がついた。
彼は、ソファに深く腰掛け、足を組んで、背もたれに身体をあずけていた。きれいな横顔が、窓から差し込む街灯の明かりでシルエットになっている。
一瞬、眠っているのかと思ったけれど、そういう訳ではないらしい。ただぼんやりしているようにも、何か考えごとをしているようにも見えた。
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