episode 02

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 言いながら、彼の親指が唇の端をなぞって移動し、愛しげに頬に触れた。理香は、その手に自分の手を重ねて目を閉じた。 「こら、理香。煽っちゃいけません」  貴文さんは笑いながら言い、もう一度、今度は軽くキスをした。 「──寒くない?」 「ううん。温かいです」  この人の腕の中は、いつも温かくて居心地がいい。 「冷えるといけないから、ベッドに戻ろう」  貴文さんは言い、立ち上がった。  手を引かれてリビングをあとにし、暗い廊下を寝室へと戻る。ベッドの上には、さっき理香が出てきた時のまま、半分めくれた毛布が残っていた。  うながされるままに横になると、毛布を肩まできっちりかけられて、すっぽりとくるまれた──というより、ぐるぐる巻きにされたという方が正しいかもしれない。 「あの、ちょっと──」  言いかけた言葉に、貴文さんは「ん?」と無邪気に首をかしげてみせ、毛布の上から理香の身体に腕を回した。 「ほら、朝方は冷えるから」  理香は、毛布の中でもぞもぞして、ようやく片手を外に出した。ぷは、と言いたい気分だ。 「大げさじゃないですか?」  抗議したら、貴文さんは「理香、意外と寝相悪いし」と笑いを含んだ声でささやいた。 「悪くないもん」 「蹴飛ばすでしょう」 「毛布を蹴飛ばしたりしません」 「いや、僕を」 「──そんなことしません!」  きっぱり言ったら、毛布ごしに細かな震えが伝わって来た。見ると、貴文さんが笑っていた。どうやら、からかわれていたらしい。
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