episode 02

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 理香は唇をとがらせた。薄闇の中、至近距離で理香を見つめる目が、ふっと優しくなった。 「また、そんな顔して──」  言いながら、理香の顔をのぞき込む。鼻先が触れて、思わず目をつぶったら、唇が軽く合わさった。それから、毛布ごと、ぎゅっと抱きしめられた。  ほのかに残るシャンプーの香り。柔らかいパジャマとふんわりした毛布の感触。大好きな人の温もりに包まれているうちに、何とも言えない幸福感がこみ上げてくる。 ──あなたに会えて、よかった──。 「理香」  貴文さんが、低い声でゆっくりと名前を呼んだ。 「ここにいてくれて、ありがとう。──君に会えてよかった」 「私も──」  理香は小声で言い、毛布の中で精一杯動いて傍らの温もりに寄り添おうとした──ところで、「あの」と困った声を出した。 「ん?」 「毛布がじゃまというか──。その、毛布ごしにじゃなくて、もうちょっと、ちゃんとくっつきたいんですけど──」  一瞬、間が空いた。腕の中から見上げると、貴文さんと目が合った。貴文さんは、何か考えるように一瞬だけ唇をぎゅっと引き結び、それから、ゆっくりと口を開いた。 「だめです」  はっきり言われて、理香は心の中で首をひねった。いつもしていることなのに、なぜ今日はダメなんだろう。 「どうして?」 「誘惑厳禁。煽るのも厳禁」 「そんなことしません!」 「理香にそのつもりがなくてもね、結果的に僕の方が──」  貴文さんは言いかけて、言葉を切った。それから「ああ、もう」と諦めたように言った。 「いいから、大人しく寝てください。ちゃんと抱きしめてるから。──毛布の上から」
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