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心地のいい腕の重みを感じながら、理香は目を閉じた。貴文さんの呼吸がだんだんゆっくりになり、やがて深い寝息に変わる。
薄目を開けてみると、形のいい額に前髪が落ちていた。理香は、かろうじて毛布から出ている片手で、その髪に触れた。
「──ん」
貴文さんが身じろぎをして、表情を緩めた。口元が微笑んでいるみたいに見える。
理香は小さく笑い、彼の腕の中で身体を丸めた。それから、お腹にそっと手をあててみた。
二人で大切に守り育てていく存在がここにある──。
何だかとても嬉しくなって、身体を寄せたら、貴文さんが「りか?」と寝ぼけた口調でつぶやいた。「ねなさい、ほら──」
明らかに半分眠ったまま、ぽんぽんと背中をたたき、ふんわり抱きしめてくれる。温かさの中で穏やかな鼓動を感じているうちに、少しずつまぶたが重たくなってきた。
夜が明けて、新しい一日が始まるまで、まだ少しある。
優しい眠りが、すぐそこまできている。
episode 2
― 終 ―
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