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──?  心の中で首をかしげながらナースステーションを離れた。案内表示に沿って進み、廊下の角を曲がった途端に、スミレ先生が「今、何か変じゃなかった?」と不審そうに口にした。違和感を感じたのは理香だけではなかったらしい。 「笑ってましたよね?」 「笑ってたわね。やっぱり、アフロにピンクは変だったかしら」  いつものふわっとした口調で言われて、研さんの姿を思い浮かべた。普段の研さんにピンクのバラは変かもしれないけれど、お見舞いなのだから許容範囲のはずだ。 「大丈夫じゃないですか? ちょっと女性向きかもしれませんけど」 「でも、あの頭だし、変な取り合わせだったかも」  スミレ先生と研さんは、顔を合わせるたびに、つかみどころのない言葉遊びみたいなやり取りを繰り広げている。仲がいいのか悪いのか、さっぱり分からない。  看護師さんの笑いの理由は、研さんの個室に足を踏み入れた瞬間に明らかになった。  部屋の主は、電動ベッドの背もたれを起こして音楽雑誌を読んでいた。いつものアフロヘアだけでも十分個性的なのに、ギターを抱えた同じくアフロヘアの男性がプリントされた紫色のパジャマを着ている。  しかも、部屋中に、ベビーピンクとオレンジ色の花が飾られていた。フラワーアレンジメントのようだが、一体いくつのバスケットがあるのかすら分からない。  ピンクとオレンジの花だらけの部屋に、紫のパジャマを着たアフロヘアの男性。パジャマもアフロ柄。はっきり言って、異空間──というか、異常な空間だ。
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