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小会議室のカーテンの隙間から駐車場を見下ろすと、暗い中に数台の車がとまっているのが見えた。夜の空気の冷たさが、ガラス越しに伝わってくる。
理香は、駐車場から区民センターのエントランスまでの間に人影が見えないことを確かめ、続いて、大通り沿いに設置されている「駐車場入り口」と書かれた看板のあたりに目を凝らした。
そのまま少し待ってみたけれど、研さんの大型バイクが現れる気配はない。
「やっぱり、電話してみます」
理香は、窓辺から離れて、会議の資料に目を通している丸岡先生に声をかけた。
研さんは、個性的すぎる見た目とは対照的に、何ごとにもきちんとした人だ。
これまで連絡なしで定例会に遅れてきたことは一度もないし、ましてや今日は、自分がいなければ始まらない内容だと分かっているはずだ。
バイクに乗っている時に連絡するのもどうかと思って待ってみたけれど、こんなに遅れるなんておかしい。何かあったのかもしれない。
ロの字型に並べた長机のまわりでは、十人ほどのメンバーが、最後の一人を待ちながら雑談をしていた。
理香はその外側を回って自席に戻り、机の上から携帯電話を取り上げた。黒い外装に「AFF事務局」と印字されたラベルが貼られている。
──事故なんかじゃなければいいけど──。
二つ折りの本体を開いてアドレス帳を表示しようとした時、手の中で緑色のランプが点滅した。
何の特徴もない、初期設定のままの着信音が小さな会議室に響いて、全員の視線が一斉に理香に集まった。液晶の上には、今まさに電話をかけようとしていた相手の名前が表示されている。
「研さんからです」
理香は少しほっとして言い、通話ボタンを押した。
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