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「とにかく急だったもので──。実は、詳しいことを何もうかがっていないんです」
会議室を一回りして名刺交換をしたあと、「長谷デザインの長谷」さんは、研さんが座る予定だった席に腰を下ろし、少しばかり戸惑った表情でほほえんだ。
年代は研さんと同じくらいだろうか。どこを取っても濃いイメージの研さんとは似ても似つかない、涼やかな顔立ちが印象的だ。
理香の右斜め前あたり、いつも研さんのアフロヘアがちらちらしている場所に自然な髪があるのが、不思議な感じがする。
「ただ、パンフレットの仕事を受けてくれ、すぐに行ってくれとだけ」
息も絶え絶えでしたから、と心配そうに口にしたところを見ると、かなり親しい間柄なのだろう。
理香は、受け取ったばかりの彼の名刺に目を落とした。
「長谷デザイン 代表 長谷貴文」という文字の下に、アルファベットで「Takafumi HASE」と印字されている。
ブルーを基調にした配列はシンプルで、凝っているようには全然見えないのにスタイリッシュだ。こういうのも本人がデザインするんだろうか。
素敵だなあ、と思うのと同時に、少し心配になった。
AFFは、会員の善意と協力だけで成り立っているような団体で、資金は決して潤沢ではない。
研さんは以前からこの会に出入りしていて、こちらの懐具合も分かった上で「いいから、任せろ」と言ってくれた。
同じ「デザイナー」という人種でも、目の前にいる人は、こういう世界にはそもそも縁がなさそうに見える。
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