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「あの、予算のことは聞かれていますか?」  おずおずと尋ねると、長谷さんは「少しだけ」と目を細めてみせた。「ほぼノーギャラだから、CSR(企業の社会的責任)だと思え、と言い渡されています」  それを聞いてほっとした。研さんは“息も絶え絶え”だったのに、必要なことはちゃんと伝えてくれたわけだ。 「まあ、大仰にCSRというほどのこともない、個人の事務所なんですけどね」  長谷さんは理香を安心させるように笑い、それから少し真面目な顔になった。 「僕としては、報酬云々よりも内容かと思っています。正式にお受けする前に、詳しく聞かせていただけますか」  丸岡先生が一同を代表してうなずいた。 「じゃあ、まずこのプロジェクトの話をしましょうか。なかなか面白いメンバーでしょう?」  言われて、長谷さんは改めて会議室を見渡した。それから机の上に目を落とし、二列に並べた名刺を眺める。  大学教授に小児科医、自治会役員、地場銀行の営業担当者、文具店やドラッグストアのオーナー、それに、中学校や高校の先生方。一般的に見て、めずらしい取り合わせなのは間違いないだろう。 「確かに──」
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