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ーー人生のターニングポイントはいつ?
と聞かれればあたしは迷うことなく、
この日を挙げるだろう。
「笠鷺くぅん!
ね!ね!シート交換しよ!
ピアノ超うまいんでしょ??
すごいよねぇ~」
「コンクールでは優勝ばっかなんでしょ??
まじやばい!ねえ弾いてみてよ!!
いっぺんきかせて!!?」
「なんでこの高校に来たのぉ??
そんな凄いのに勿体ない~」
わっ、と一点に群がり出した
大多数を横目に、重い腰を上げる。
よいしょ、と机に重心を傾けると、
何やら黒い影が映っていた。
お、誰か来てくれたのかな?
と少し期待して顔を上げればそこには、
呆れたように笑うミカがいた。
「ミカ、どうしたのよ。」
「いや、笠鷺くんと交換でも、と思ってたんだけどあれじゃ無理ね。」
「あー…ドンマイ、あの中に突っ込んでいくのはだいぶ難しいわ。ま、まだチャンスあるじゃん。」
「いいのよ別に。
私、笠鷺くんは二次元だと思ってるから。
私なんかが話すのなんて、
烏滸がましいくらいよ。」
「あ、そう。」
若干ミカから
物理的にも精神的にも
距離を取ったのと、
尖ったナイフのような鋭い声が響いたのと、
殆ど同時だった。
「うるさい。
揃いも揃って同じようなことを。
だいたいお前たちは、
俺の何を知ってるから、そんな風に喚くんだ。
サルの方がよっぽど頭がいい。」
大して大きな声じゃなかったが、威力は抜群。それまで騒がしかった教室は、針を落としても響きそうなくらいに静まり返った。
当の本人は、何事もなかったかのように
相変わらず仏頂面だった。
「な、何よ!偉そうに」
「なんかイメージと違うし~」
「サルみたいとか酷くない?」
「顔が良くて金持ってるからって
傲慢だな、行こうぜ。」
誰かが口火を切ったのを始めに、
先程まであれだけ媚びへつらっていた一同が
掌を返したような態度を取り出す。
あたしのような少数派と先生が
呆気にとられている間に、ホームルームが終わるチャイムが鳴ってしまったのだった。
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