Scene;1

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ーー人生のターニングポイントはいつ? と聞かれればあたしは迷うことなく、 この日を挙げるだろう。 「笠鷺くぅん! ね!ね!シート交換しよ! ピアノ超うまいんでしょ?? すごいよねぇ~」 「コンクールでは優勝ばっかなんでしょ?? まじやばい!ねえ弾いてみてよ!! いっぺんきかせて!!?」 「なんでこの高校に来たのぉ?? そんな凄いのに勿体ない~」 わっ、と一点に群がり出した 大多数を横目に、重い腰を上げる。 よいしょ、と机に重心を傾けると、 何やら黒い影が映っていた。 お、誰か来てくれたのかな? と少し期待して顔を上げればそこには、 呆れたように笑うミカがいた。 「ミカ、どうしたのよ。」 「いや、笠鷺くんと交換でも、と思ってたんだけどあれじゃ無理ね。」 「あー…ドンマイ、あの中に突っ込んでいくのはだいぶ難しいわ。ま、まだチャンスあるじゃん。」 「いいのよ別に。 私、笠鷺くんは二次元だと思ってるから。 私なんかが話すのなんて、 烏滸がましいくらいよ。」 「あ、そう。」 若干ミカから 物理的にも精神的にも 距離を取ったのと、 尖ったナイフのような鋭い声が響いたのと、 殆ど同時だった。 「うるさい。 揃いも揃って同じようなことを。 だいたいお前たちは、 俺の何を知ってるから、そんな風に喚くんだ。 サルの方がよっぽど頭がいい。」 大して大きな声じゃなかったが、威力は抜群。それまで騒がしかった教室は、針を落としても響きそうなくらいに静まり返った。 当の本人は、何事もなかったかのように 相変わらず仏頂面だった。 「な、何よ!偉そうに」 「なんかイメージと違うし~」 「サルみたいとか酷くない?」 「顔が良くて金持ってるからって 傲慢だな、行こうぜ。」 誰かが口火を切ったのを始めに、 先程まであれだけ媚びへつらっていた一同が 掌を返したような態度を取り出す。 あたしのような少数派と先生が 呆気にとられている間に、ホームルームが終わるチャイムが鳴ってしまったのだった。
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