Scene;1

6/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
「あれは、周りが悪いわ。 どう見たって、マコトもそう思うでしょ?」 「まぁ、そうね。」 相槌を打つ視線の先に 偶然笠鷺くんが収まった。 どうやら、 相手もこちらを見ているようだが、 先程までの無表情とは違って、 少しつり目型の大きな双眸を 見開かせていた。 「み、ミカ。ミカ!」 「何よ、いきなり大きな声出して。」 「そうじゃなくって、う、後ろ!」 「へ?」 ミカの後ろ。 即ちあたしの目の前、に現れたのは、 さっきまでクラスの中心として騒がれていた 笠鷺 昌孝だった。 遠くで見ても綺麗な顔だと思ってたけれど、 間近で見ると一層よくわかる。 アーモンド型の少しつり上がった大きな眸は 『そういう宝石だ』と言われれば 信じてしまいそうなほど美しい。 中高の鼻と形良い唇が 小さな輪郭にバランスよく収まっていて。 色素の薄い癖っ毛の髪と、 透けるほど白い肌とのコントラストなど この世のものとは思えず、 "ピアノの為に生まれてきた天使" という肩書きが、大袈裟ではないことを 改めて実感できる。 「っ!!!」 おそらく近すぎて脳みそが沸騰したミカは、 パクパクと口を動かすだけの屍となってしまった。 「ヨシオカ、ミノリ?」 「え?あ、ああ、あたしの名前? よく間違われるけど、違うの。 実と書いて、マコトと読むのよ。」 彼の視線は、あたしの机の上、 出しっ放しの自己紹介シートに釘付けのようだ。 名前欄を読みあげたテノールは 怪訝そうな声色だったので、 あたしは初対面の相手に必ず答える常套句を告げた。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!