償い

容疑者

警察署での雑務がいつもより早く終わって久し振りに早めの帰宅だ

元気に走って駆け寄って来る娘の姿
あどけない優しい笑顔で迎えてくれる妻の姿

そんな事を頭に浮かべながら扉に手をかけた
（ガチャン）
玄関を開ける音が部屋中に鳴り響いた

いつもより静かだ
その静けさの中で一際目立って聞こえてくる
リビングのテレビの音声

なぜか
妻と娘の声がしない

何かがおかしい

いつもなら出迎えてくれるのに
（今日は帰りが早いからかな？）

部屋の奥に進む
テレビの音量が大きくなっていくにつれ
自分の危惧する心が大きくなる

リビングに入ると付けっ放しのテレビ
並べられた食器
出しっ放しのキッチンの水
娘の出しっ放しのオモチャ

キッチンの水を止めようとキッチンへ進む

すると、血だらけの状態で仰向けになって倒れている
妻だ。
大量の出血。傷だらけの身体。

娘は。
急いで娘の部屋へ、部屋のベッドにお気に入りのクマのぬいぐるみと一緒に血を流して倒れている

泣き叫ぶ
付けっ放しのテレビの音が懐かしい家族の団欒を思い出させた

その時、緊急ニュースがテレビの画面を変える
犯人逮捕 この4文字である
栃木母子殺害事件 犯人逮捕
吉岡 徹 (43)
どこか聞き馴染みのあるこの名前

「嘘だろ…なんでだ…なんであの吉岡さんが」

度重なる出来事に意識が飛びそうになった
警察に電話をかけた
人の声を聞くと冷静になれた
「もしもし、事件です。私の、私の妻と娘が…」

第1発見者として事情聴取された
冷静になって考えてみると、誰が私の妻と娘を殺したのか。
「そうか、栃木母子殺害事件、犯人逮捕」
吉岡徹と結びついて仕方がない。