優希の場合

4/4
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
 満月の下、商店街の辺りまで来ると、静寂を破る怒声が聴こえて来た。  そして、女性の悲鳴がサイレンのように響く。 「助けてーっ!」  こりゃ大変だ。声を頼りにその場へ急ぐ。  すると、五人の不良に囲まれる香織を見た。  さらに、香織が不良の一人に平手打ちされ、地面に倒れる瞬間も目撃した。  俺の中で、何かが爆発する。  それからは、ほんの瞬き一、二回の間だった。  不良たちの間を駆け抜けると、手刀で気絶させた。  これでも、俺の怒りは治まらない。不良の一人を引き起こし、血を吸うことにする。  あまり美味そうではないが仕方がない。  俺が、相手の喉に犬歯を突き立てようとした瞬間、目の端に香織が映った。  香織、お前は、なんで俺の心を揺らす。  香織、なぜ、何時までも忘れられない。いっそ、香織の血を吸いたい。甘美な香りがするお前の血を、残らず吸いたい。お前の全てを奪いたい……。  だが、香織は泣いていた。  その涙が、見失いかけていた心を取り戻させてくれた。  会話を交わした後、俺は香織を抱き上げた。  その途端、香織は安心して寝てしまう。 「優希……」  香織の寝言を聞いた途端、俺は何もせずに歩き出した。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!