優希の場合

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「みんなは騙されているのです。美里優希の正体はヴァンパイアです」  男らしく言い切る湯沢は、ちょっと格好良い。 「香織、構うな。相手が喜ぶだけだぞ」  俺は、香織を連れてその場を離れ、教室に向かった。 「まったく、あの1年坊主、しつこいんだから」  香織の怒りは治まらないようだ。  教室に入ると、 「おはよう」 「おはよう」  が連呼される。お互いがお互いに敵意がないか顔色を窺う朝の恒例行事。無事にグループの輪に逃げ込むと、まずは一安心となる。 「美和、おはよう」  窓側に座る美少女は、伊藤美和。小柄で色白な彼女は、ストレートの美しい髪を持っていた。 「香織、優希、おはよう」  俺が美和の後ろ、香織がその隣に座る。 「美和、ネール行ったの?」  美和の爪は、ツヤツヤのピンク色をしていた。 「うん、手入れして貰った。保護用の樹脂を塗ってもらったから、ピカピカでしょ」  嬉しそうに話す美和を、冷たい声が遮った。 「爪の手入れなんて当たり前じゃない。香織は、そんな余裕もないんだ。可哀想ね~」  イヤミな割り込みをしたのは、塚本 麗。  香織とは犬猿の中で、事あるごとに対立している。 「爪なんて、自分で手入れすればいいの」 「香織の手入れ法なんて、お風呂上がりに爪切りでカットするくらいでしょ?」 「それの何が悪いの!」 「別に、ただ、美和も優希くんも、香織のレベルに合わせるのは大変だと思ってさ」  香織の家は裕福ではない。  麗は、それを遠回しに非難していた。
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