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俺は、淑子さんに育てられた。その時、淑子さんにも子供が居て、彼女は親に預けていた。それが香織になる。その話を聞いた親父が、気を利かせて香織も住むように勧めた訳だ。
俺たちは、広い庭を自転車で進む。居住者の人数の割に無駄に広すぎる。
「ねぇ、覚えている? 昔、庭で遊んでいて優希を泣かせていたね」
香織が、暗い過去を持ち出して来た。
「香織は昔から乱暴だったからな」
俺の反論に口をとがらせて怒る所は、幼い頃と変わらない。
「近所の公園で遊んだ時、砂場で悪ガキに砂を喰わされて、やっぱり泣いてたね」
さらに暗い過去を持ち出されて、ブルーからダークブルーへと変色する。
「ちょっと油断していたからな」
俺の言い訳は、かなり苦しかった。
「わたしが助けてあげたら、優希、言ったよね。『いちゅか、きっと、きっと、つおくなってかおりをたしゅける』って……」
物真似まで入った感動的な場面だが、素直に認めるには照れがある。
「そんな昔の話、忘れたよ」
俺の冷たい台詞を気にする様子もなく、香織は背中に体を密着させた。
彼女の存在が、異様に熱い。
「わたしは、ずっと覚えてたよ」
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