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「不審な客はもぬけの空。かわりに、覚え書きが忘れられていて、お前に届けたそうだな」
クラウルの瞳が初めてシウスを捉えた。それに、シウスはニンマリと笑った。
「ランバートから預かっておるのだろ? その不審者が持っておった覚え書き。昨日動いていたのはその真偽を確かめるため。違うか?」
あくまでそういうことにする。そう分かりやすく示してやらなければこの秘密主義は動きはしない。
シウスの態度に溜息をつきながら、クラウルは机の中から数枚からなる冊子を取り出した。
「真偽のほどがまだ分からない。昨日で不審が深まり、更なる追加調査を今日命じたばかりだ」
「どれ」
出された冊子を見ると、全てが地図だ。王都の地図に印がある。この印が何を示しているかを探っているのだと分かった。
「昨日の調査では、なんと?」
「この印の場所には、昨年から新たな就労者が住んでいる。一つ所に二~三人。夫婦であったり、同郷の友であったりだ」
「不審な動きがあるのか?」
「ない。真面目に王都で生活している」
「では…」
「ただし、そこに住んでいる者は皆、王都へ転居の届けを出していない」
不審ではない。そう言いかけたシウスの舌をクラウルは見事に止めた。
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