選択の機械

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【architect】は非常に優秀だった。最初こそ、与えられた情報が少ないために選択を誤ることもあったが、95パーセント以上の確率で最適解を導くことができた。その正確さと高い評判により、【architect】ユーザーは爆発的に増加して、コンピュータ端末の必須アプリケーションと言われるまでとなった。 しかし、しばらくすると、【architect】のユーザーが減少傾向にあることが判明した。 【architect】のCEOはこの調査結果を聞いて驚いた。 「なぜだ…情報が十分に与えられた【architect】は誰よりも正しい答えを導き出すことができるのに、なぜ利用者が減少しているんだ。」 CEOの元に【architect】の開発者がやってきた。 「ボス、【architect】のユーザーが減少している理由に心当たりがあります。」 「ほう、まさかプログラムにミスがあったと言うんじゃないだろうな。」 「いえ、リリースしてこれだけ時間が経っているのに、そんなことは有り得ないでしょう。私はこのアプリが使われなくなっているのには、人間側に理由があると思うのです。」 「人間側がアプリを受け入れられないと言うのか。」 「ええ、人間は正しさを求めるとともに、いつだって自由を求めてきました。選択の自由もその一つです。このアプリケーションを使えば確かに正しい答えを導き出せますが、それは人間の選択する自由を奪っているとも捉えることができます。」 「【architect】を使わなくなったユーザーは正しさよりも自由を選んだということか。それならばどうすれば良いんだ。」 「【architect】に大型パッチを加えます。【architect】の返答を"曖昧な"ものにします。最適解を出せなくなりますが、人間がそれを望むのですから仕方ありません。」 「解答を"曖昧"にすることによって、人間側にある程度の機会を残すということか。なるほど、やってみろ。」 こうして【architect】に大型パッチが導入され、新モード【oracle】実装された。 【oracle】は最適解ではないが、ある程度正しい答えを曖昧に示すもので、人間側で思考する必要があり、当初はその必要性が疑われるものであった。 しかし、このアプリケーションのユーザーは右肩上がりに増加。 もはや文明人には欠かせないツールとなった。
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